第26回 〜雪の力に、身を任せて〜 雪下野菜農家 馬場一久さん(南会津町)

第26回 〜雪の力に、身を任せて〜
雪下野菜農家 馬場一久さん(南会津町)

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「雪下野菜(ゆきのした)」をご存じですか? 実は野菜を雪のなかで寝かせておくと、野菜たちはただ冷やされるだけでなく、次第に、 ゆっくりと甘味を増していくんだそうです。土の力で一度育ち、雪の力でもう一度育つ。今回は、そんなちょっと不思議な成り立ちの「雪下野菜」を育ててい る、南会津町の馬場さんにお話を伺いました。

Q. 雪下野菜とはどのような野菜のことでしょうか?

A. 昔から、南会津のような雪深い地の農家では、収穫したキャベツや白菜、大根、にんじんなどの野菜を、天然の冷蔵庫のような感じでよく雪の中で保存していた んだ。そうすれば自然と野菜の甘みが増すってことを経験でみんな知っていたからね。いつ誰が言い出したのかは分からないけども、それに名前を付けて出荷し だしたのが「雪下野菜」の始まりじゃないかな。

Q. 農業、そして雪下野菜を始めたきっかけは何でしたか?

A. 学校を卒業してから、農家だった実家の手伝いをしていたんだけど、青空の下で澄んだ気分で集中出来る仕事っていいなと思ったのが始まり。だから23歳くら いの頃かな。迷惑な雪を逆手に取ってやりたいとはいつも考えていたんだけど、競争の激しい普通の市場じゃなく、小さくても、こだわりのあるプレミアムな市 場を作りたいと思って本格的に始めることにしたんだ。

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Q. 美味しい雪下野菜を作るための、馬場さんなりの“工夫“や“ひけつ”はありますか?

A.  美味しさは天からの贈り物で、自分が何か出来ることじゃない。四季の変化が野菜の鮮度や旨味を作ってくれると思っている。雪下野菜は、雪に身を任せる、雪 の力を借りるっていう感じに近いね。

ただ、一口に雪の下に野菜を寝かせるって言っても、方法は1つじゃない。まだ栽培を始めたばかりの頃、普通に収穫後に雪の中に野菜を入 れる方法と、収穫せずにあえて地面に根を張らせたまま雪をかぶせる方法とを両方試して、味を比較してみたんだ。すると、根を張ったまま雪をかぶせた野菜の ほうが、瑞々しくて鮮度が良かった。機械で測ってみたら、糖度が違うこともはっきりした。それからは、うちでは根を張らせたまま雪をかぶせる方法で、雪下 野菜を作ることにしているよ。 それから、種まきの時期も少しだけ遅くして、野菜が育つピークが雪の下に入ってから来るようにも工夫しているよ。

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Q. 雪下から野菜を掘り出すのって、大変そうな気がするんですが・・・

A.  そうそう、南会津の冬は本当に雪深いから、夏に普通に野菜を育てている時のように、野菜同士の間隔があいたまま雪をかぶせちゃうと、あっちこっち掘り返し て収穫しないといけなくて、大変なんだ。だからうちでは野菜がある程度育ったところで一度収穫して、それからもう一度野菜を密集して植え直して、その上で 雪をかぶせるようにしている。そうすると掘り返す場所が少なくて済むでしょ。

Q. うちの雪下キャベツは、ココが違う!というところはありますか?

A.  雪下キャベツは、ほかの野菜と違って、芯から茎まで甘味がある。キャベツだけじゃなく、白菜も大根もにんじんも、端から端まで甘い よ!

Q. オススメの食べ方やレシピを教えて下さい。

A.  やっぱり、キャベツは炒めるのが一番美味しいね。

Q. 馬場さんにとって、農業とは、毎日のなかでどんな存在ですか?

A. 農業は生活のそのもの。自分が手をかけた分だけ応えてくれるから、朝から晩までいくら時間があっても足りないくらいだね。

Q. 馬場さんの毎日の生活や、特に農業に関わることで、震災や原発事故の前後で、どんな変化がありましたか。

A. 震災が起きたのは、東京で5~6軒のレストランがうちの雪下野菜を仕入れてくれたりと、手ごたえを感じ始めていたころだった。「今年はやるぞ!」っ て仲間たちと張り切っているところへ原発事故が起きて、やる気も何もかも全てぶっ飛ばされた。やっとここまで一段ずつ梯子を登ってきたのに、一気に外され た感じだった。

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Q. 震災の後で、何か畑仕事や農業に関わることで、思い出深い出来事はありましたか?

A. 今まで使ってくれていたレストランは、風評被害の影響もあって、お客様が嫌がったため出荷出来なくなった。何を作っても売れるわけもなく、ずっと力 が入らなかったし、自分でも雪下野菜のことなんて忘れるところだった。 こうして雪下野菜について話をするのも、よく考えたら原発以降初めてで・・・。今回のふくごはんをきっかけに気付かされたのは「原発のせいにしないで、今 でも努力してきたか?」ってこと。東京への出荷はまだ元に戻っていないけれど、最近では雪下野菜を地元の学校給食に使って貰っているし、これからも努力を 続けて、農業と一緒に自分自身も磨きながら頑張っていきたいと思います。

Q. 最後に、皆さんへの、一言をお願いします!

A. 今雪下野菜を食べて、自然がつくる天然の味を、あじわってほしいです!

 馬場さんの雪下野菜を購入できる場所

本格的な出荷はこれからということです。 馬場さんのおいしい雪下野菜に出会える日が待ち遠しいですね。