第24回 〜たとえ場所が変わっても、俺が作れば“大熊の梨”〜 ㈲フルーツガーデン関本 代表 関本信行さん(大熊町)

第24回 〜たとえ場所が変わっても、俺が作れば“大熊の梨”〜

㈲フルーツガーデン関本 代表 関本信行さん(大熊町)

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浜通りの真ん中に位置する大熊町で、100年以上続く梨農園を営んでいた関本さん。2011年3月に起きた震災と原発事故によって避 難を余儀な くされましたが、その後、千葉県香取市で梨農園を再開し、この秋はじめての収穫を迎えました。関本さんの語る言葉はとても力強く、 “うちの梨は美味い!”という、大熊の頃から変わらぬ誇りが溢れていました。

Q. 関本さんが梨づくりを始めたきっかけは何でしたか?

A. うちは曽祖父の代から100年以上続く梨農家だったから、俺も自然とこの世界に入ったようなもの。高校を出てすぐに農林水産省の農業者大学校 に通って、卒業した1985年に大熊町に戻った。だから、23歳の時からずっと梨農家だね。
大熊にいた時は、3.1ヘクタールの畑を昭和9年生まれの親父と2人で管理していて、主に親父がキウイと洋ナシで、残りの和梨が俺の担当。洋ナシは7種 類、キウイは3種類、和梨は14種類を作っていたんだ。受粉や摘果などの忙しい時期は母ちゃんとばあちゃんにも手伝って貰ったりして、完全なる家族経営で やっていたんです。

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Q. 美味しい梨をつくるための関本さんなりの“工夫”や“ひけつ”はありますか?

A. 美味しい梨を作るには、梨1本1本をいい状態にするんじゃなくて、梨畑全体を健康にすることが大事なんだ。梨畑を健康にするというのは、そこに住む“微生 物”を活性化させること。人間でいうお腹の中の微生物と同じで、それが死んじゃうと梨畑もせっかく与えた肥やしを消化出来ない。微生物が肥やしをうまく消 化して、それを梨の木が吸い上げて、美味しい梨を作れるようにする環境づくりが俺たちの仕事。微生物は外から持ってくるわけじゃなくて、もともとその土地 に住みついている土着菌を育てるのが一番。昔からよく言う適地適作ってのは、このことだね。

Q. 関本さんにとって梨づくりとは毎日の中でどんな存在ですか?

A. 生活のサイクルの1つかな。梨に愛情注ぎすぎて家族にかまっていられないくらい(笑)。梨もみんな生き物だから、本当は全部の実を毎日見てあげないんだけ ど、やり始めたらキ リがないから適度に見ているよ。でも木の枝に病気が入っていたら、どんどん進行しちゃうから見つけたらすぐ切らないといけない。可愛そうだなって思う面も あるけど、その木を生かすためには切るしかないんだ。
梨の木は管理さえ良ければ100年持つと言われるけど、ピークは30年。30年を超えると明らかに花の付きが悪くなるから、俺らには自然と分かる。畑には 900本くらいあったけど、だいたいどこの木がどんな状態かは頭に入っていた。親父との会話なんて「あそこの右から3本目、そろそろだべ」「んだんだん だ」ってそんな感じだよ(笑)。

Q. 関本さんの梨作りへの一番のこだわりは?

A. 大熊にいたころから、普通の梨ではつまらないと思って作ってきた。もう一回食いたくなるような梨じゃないとダメだってね。「来年も食いたい」、そして「誰 かにも食わしたい!」って思われるような梨作りが基本だね。

Q. 「ふくしまの食」と聞いて、どんなことが頭に浮かびますか?

A. インパクト弱いなって感じかな(笑)。“果物王国”って言っているけどさ、実は日本中に果物王国はあるし、うちのかあちゃんは埼玉生 まれなん だけど、結婚する時に向こうの親戚から「福島って何があるの」って聞かれたくらい。「桃って岡山?や山梨じゃないの?」みたいな(笑)。そういう時は「ば かやろう、うちの梨食ってみろ!」って言いたくなるね(笑)。それは全農のPR下手もあると思っていて、だから俺はあくまで自分の手で売ることにこだわっ ていたよ。

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Q. 震災と原発事故のあと、関本さんの梨作りはやはり大きく変わったんでしょうか?

A. そりゃ勿論、今までとは違う場所で作っているわけだから、同じってわけにはいかない。面積は昔の半分だし、種類も和梨の7種類に減っ てるのは 事実だよ。でも、千葉だろうとどこだろうと、俺が作る限りこれは俺の梨だし“大熊の梨”だと思ってる。大熊のノウハウはちゃんと違う土地でも生きるってこ とが証明できたし、そもそも大熊で梨作りを初めたのはうちの先祖だから、俺が作れば場所がどこだって、それは大熊の梨だと思ってやっているよ。

それから少し話はずれるけど、こうして振り返ってみると、震災後は本当にいろんな経験が出来たと思っているんだ。なかでも良かったの は、他の県の梨 の産地を見て回れたこと。それもシーズン真っただ中にね。今までは梨にかかりっきりの生活だったから、農作業の忙しい春と秋に出掛けることなんてほとんど 出来なかった。だけど去年は他の産地を自分の足で回って、梨も食べたり出来て、凄く良い経験になったよ。ま、いろいろ食って確かめて、やっぱり俺んちが 一番だなって思ったけどね(笑)。

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Q. 再開先に千葉県を選んだのは何か理由があったんですか?

A. 大熊の気候に似ていないと大熊の技術やノウハウが使えないって分かっていたから、なるべく気候が似ている太平洋側で、しかも南東北に近い千葉県か茨 城県あたりで初めから農地を探してたんだ。そのなかで、たまたま香取市の農業法人の代表が俺と同じ農林水産省農業者大学校のOBだって分かって、しかも後 輩だった。そうしたら話が早かったんだよ(笑)。

Q. ことし初収穫を迎えてみて、どうでしたか?

A. 一言で言うと、まだまだ大熊の俺んちの域には遠い。あえて点数を付けるなら、半分の50点くらいかな。中学2年生になる息子の舌が一番厳しくて、 「ま だ売りに出せないね」なんて言うんだよ(笑)。特に震災の前の2010年は凄く天気に恵まれて、例年になく甘い梨が出来た年だった。30年作ってきたなか で一番旨かったと思うよ。その味が最後の記憶に残っているもんだから、それを超えるのは簡単じゃない(笑)。ケーキ食った後に食っても甘かったって言う友 達もいたくらいだったからね。
それだけが理由じゃないけど、実は今年収穫した梨は出荷していない。避難して2年以上の間ずいぶんと多くの人に助けられてきたから、今年出来た梨はお礼と 挨拶を兼ねて、まずはお世話になった人たちに贈ってるよ。とはいえ来年も息子のゴーサインが出ないと出荷は出来ないんだけどね(笑)。

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Q. 関本さんの梨を食べてくださる人たちへ一言メッセ―ジをお願いします!

A. 生で食って頂戴!
これがお約束だね、果物は生が一番美味いから、是非そのままで味わって欲しいね。

♪こぼれ話

●関本 さんの大熊町の 農園で作られていた梨の品種はこちら!


・幸水・豊水・新高・愛甘水・なつしずく・秋栄・あ きあかり・ 二十世紀
・秋麗・愛宕・秀峰・にっこり・涼豊・早生赤

洋ナシ
・バードレット ・ ラ・フランス ・オーロラ シルバーベル
・マルゲリット・マリーラ ・ル・レクチェ ・バ ラード

キウイ
・ヘイワード ・レインボーレッド ・イエロージョ イ

内緒で・・・ 柿 ・リンゴ

●どう して、こんなに沢山の種類の梨を作っていたんですか?

梨は、春先の天候次第で収穫できる時期が2週間くらいずれてしまうから、いつ来ても必ず旨い梨を食べられるように種類を揃え ていたんだよ。それに、たくさ ん種類があれば甘いのが好きな人にも、酸味があるのが好きな人にも対応できる。後は単純に食べ比べを楽しんで貰いたくてね。ぶっちゃけ、「ゆうても梨だか らあんまり変わらないでしょ」って人にいろんな種類を食べて貰うのが面白かったね。「あ、違う!」って驚く瞬間が嬉しくて。「こんなに違うんだよ、だから 俺はこだわって作ってるんだぜ」って伝えたかったんだ。

< 購入できる場所 >

・のぶろぐ

※今年は販売していませんが、梨農園の様子はブログで日々紹介しているとのこと。 来年をお楽しみに!