なめこ農家、シェフ 「東和 季の子工房」武藤洋平さん(二本松市)

第29回〜多様な食文化を、味わいながら守る楽しみ 〜

なめこ農家、シェフ「東和 季の子工房」武藤洋平さん(二本松市)

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秋の味覚の代表格と言えば、きのこ!ということで、今月の食材は「なめこ」です。 ぬるぬる、つるつる、そしてシャキシャキともした触感がクセになる、なめこ。定番のなめこ汁以外にも、美味しい味わい方がたくさんあること、知っています か? 今回お話を伺ってきたのは、なめこの栽培農家でもあり、農家レストラン「季の子工房」のシェフでもある武藤洋平さん。日々なめこの成長を見守っているから こそ知り尽くしている、なめこの魅力。こっそりおすそ分けします。

Q. 武藤さんがなめこの栽培を始めたきっかけは何でしたか?

A. 父の代から数えて、30年あまりになります。僕らの住む二本松市旧東和地区(以下、東和)はもともと養蚕が盛んな地域で、はじめは我が家も養蚕がメイン で、なめこ栽培は冬季の仕事でした。
しかし次第に中国産絹糸のあおりを受けて、養蚕業が衰退していきます。その頃ちょうど、なめこを施設で周年栽培する技術が確立され、父がその技術を導入し たことをきっかけに、我が家はなめこの専業農家になりました。

Q. 武藤さん自身は、いつからなめこの栽培に関わりだしたんですか?

A. 僕自身はもともと郡山の調理師学校を卒業したあと、東京のフレンチレストランで働いていました。ある年、両親が蚕小屋を改装して自宅で農家レストランを始 めると聞き、僕も地元に戻ることを決めました。両親とともになめこを栽培しながら、完全予約制の農家レストランのシェフとして働き始めたんです。
仕事で一日が終わる東京の生活とは違い、地元に戻ってからはのびのびと日々を過ごすことが出来ました。一方で、何もない田舎での飲食業の難しさや、なめこ の市場価格がどんどん下がる現実にも直面し、なめこ農家としての将来性に不安があったのも事実です。

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Q. 美味しいなめこを作るための、 “工夫“や“ひけつ”は、ずばり何でしょうか??

A. なめこの栽培方法は、木を細かく砕いたおが粉を主な原料にした培地で、そこにふすまや米ぬかなどいろんな栄養剤を加え、なめこの菌が育ちやすい環境を整え るというやり方が基本。うちでは安定した品質と収量が確保するため、この培地に、仙台のニッカウイスキーから出たウイスキーの搾りかすから出来た栄養剤を 使っているのが特徴です。

Q. うちのなめこは他のところとは、ココが違う!というポイントを是非教えて下さい。

A. うちのなめこと言いますか、うちの農家レストランでは、今までお客様が食べたことが無いであろう、“農家ならではのなめこ料理”を提供することを心がけて います。なめこの新しい魅力を感じて頂ければ嬉しいです! 

        

Q. オススメの食べ方やレシピを教えて下さい!

A. 一番はやっぱり、なめこ汁。出来るだけ新鮮ななめこで作ると、つるつる感だけでなく、茎のシャキシャキ感も味わえて最高です。和食が世界遺産となり見直されている今、和食に欠かせない味噌汁の具の代表格として、なめこはやはりおすすめです。
そのほかに、うちのレストランでは、なめこをオリーブオイルでソテーして、ニンニクや塩、黒コショウを加え、スパイシーな万能トッピングとしても使ったりしていますよ。 

Q. 武藤さんにとって、農業とは、毎日のなかでどんな存在ですか?

A. いろんな可能性を感じさせてくれる職業です。農家レストランや、スタディツアーなど、「農+α」の選択肢が沢山あると思うからです。農業を通してどんなことができるかと考えると、毎日、ワクワクします。 

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Q. 「ふくしまの食」と聞いて、どんなことが頭に浮かびますか?

A. 福島県の農産物は、全国に「これだ!」と言えるものがあまりありませんが、昔から「桃・梨・柚子は北限、林檎は南限」と言われるほど、絶妙にいろい ろな果物や野菜などの生産に適した環境がある、豊かな食材の宝庫です。福島は四季折々の旬を、食を通して味わうことの出来る素晴らしい土地だと思います。
一方で、食文化に対する福島の消費者の意識はあまり高いようには思えません。身近に美味しい農産物がすぐ手に入りやすいという環境のせいも あるかも知れませんが、生産者の想いや料理人の想いを伝えようとしたときに、東京の消費者の方々に対してよりも、伝えるのが少し難しいなと感じることが多 々ありました。                                   

Q. その難しい面を解決するには・・・?

A. もっと福島の食の素晴らしさを、直に消費者に伝える機会を増やすことが大事だと思います。「○○さんの野菜が欲しい!」という関係をど んどん築いていきたい。去年は、関東地方への直売に積極的に参加してきましたが、今年は県内のイベントへの参加を増やし、直接福島の消費者に伝える機会を 増やすよう心掛けてきました。さらに県内の飲食店のシェフたちとの繋がりを増やして、福島の食を盛り上げていきたいと思っています。        

Q. 「ふくごはん」プロジェクトは、震災と原発事故をきっかけに、改めて福島の食の魅力を多くの伝えたいと始まりました。毎日の生活や、特に農業に関わること で、震災や原発事故の前後で、どんな変化がありましたか。?

A. 環境の変化や、福島のなかで農業でやっていく難しさなど、マイナス面はありました。しかしそれ以上に、多くの農家や県民の人たちが、「福島を前よりももっといいところにしてやる!」という意識が高まったという雰囲気を一番肌で感じることが出来た気がします。

Q. 震災の後で、何か畑仕事や農業に関わることで、思い出深い出来事はありましたか?

A. 原発事故の影響で、なめこに限らず福島のきのこ類は大変な打撃を受けました。うちも2012年の3月まで出荷規制を受けました。次第に価格は戻りつつありますが、まだ影響が完全に消えたわけではありません。
一方で、福島で農業を続けていくと決めた農家さんたちの間には、震災をきっかけに新しい動きが起こり、今とても福島の農が盛り上がっている雰 囲気を感じています。東和にも、県外からの支援や視察でお越しいただく機会も増えました。将来的に福島は、この震災から農業を立ち直したという経験が、と ても大きな財産になる日が来ると思います。
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Q. なめこを食べてくれる人たち、このインタビューを読んで下さる皆さんへの、 一言をお願いします!

A. 実はなめこを食べる文化は世界で日本と中国の一部にしかありません。そもそも外国にはあまりヌルヌルしたものを食べる文化が無く、逆にそれは日本人が多様な食文化を持っているという裏返しでもあると思います。
なめこだけでなく、毎日の食事に旬の新鮮な地元野菜を取り入れ、日本人ならではの、その地域ならではの食の多様性を楽しみながら守っていってください。      

< 渡辺 武藤さんのなめこを購入できる場所 >

・ うちのなめこはJAを通じて県内や東京のスーパーで売られてい
ます。「智恵子の里」のパッケージが目印です。

・ それとは別に、地元の「道の駅ふくしま東和」では市場には流
通していない超小粒のなめこや、水洗いせずに株ごとパックし
たフレッシュな株取りなめこも出荷しています。ぜひ試してみ
て下さいね。