かまぼこ製造「かまぼこの貴千(きせん)」

第28回 〜かまぼこ作りを通じて、地元の味を守る。 〜
かまぼこ製造「かまぼこの貴千(きせん)」
広報担当 小松浩二さん(いわき市)

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幾つもの漁港を抱える、いわき市。地元の漁港で水揚げされた魚を使い、この場所で50年以上かまぼこ製造を行ってきたのが「貴千」 だ。東日本大震災によって市内の漁港で一時的に水揚げが止まるなか、何とか港町としてのいわきの姿、また、昔から慣れ親しんできた地元の味を守ろうと、 “いわき”にこだわった新商品作りを進めている。

  1. 貴千のかまぼこ作りにはどのような歴史がありますか?

    A. 弊社の創業は1963年、今年で創業51年です。遠洋漁業の技術が向上したことで、いわき市内にも新鮮なスケソウダラの水揚げがもたらされるようになり、 創業者の小松中司が「おいしいかまぼこを製造して地域に貢献したい」と起業したことが始まりです。
    当初は「リテーナー成形かまぼこ」という板付きの蒸しか まぼこが主力品で、主に首都圏の市場へ出荷され、スーパーなど量販店で販売されておりました。

  2. 震災後は特に〝地元ならでは”にこだわっているそうですね。

    A.  はい。そもそもリテーナー成形かまぼこは個性を出しにくい商品のため、20年ほど前から徐々に、より付加価値のある「いわきならではのかまぼこ」の開発を 目指してきました。
    さらに震災後は、消費者に福島県産が避けられたり、地元の漁港で魚が水揚げされないなかで、地域の食文化が失われてしまうのではないかという危惧がありま した。
    港を中心に町から元気が失われるなか、地元の企業として何とか地元の人に元気を与えることが出来ないかと新商品の開発に取り組んだんです。 そして生まれたのが、「さんまのぽーぽー焼風蒲鉾」や「かつおのたたき風蒲鉾」など、地元の食文化に根ざしたかまぼこ、地元の料理をフィーチャーしたかまぼこ です。パッケージにも「いわき小名浜」をしっかりと銘打っています。最近では、いわきのお土産としての認知度も高まり、市内の観光施設や高速道路のサービ スエリアなどでも販売されるようになりました。いわき市の方々や、いわき出身の方から「これが地元の味だ!」と言われることが、本当にうれしいです。

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  4. 美味しいかまぼこを作るための、“工夫“や“ひけつ”は、なんでしょうか?

    A.  かまぼこのすり身は加工品ではなく、「生き物」であると考えています。すり身の解凍方法や熟成のための手間を省かず、可能な限り「人の手」で作ることを目 指しています。
    すり身は、その日の気温や湿度などによって状態が変わってくるため、おいしさ、食感、この2つが最大限に引き出されるタイミングを見計らっ て製造にあたるよう心がけています。機械任せでは、これが出来ません。

  5. うちのかまぼこは、他とは「ココが違う!」という点を教えてください?

    A.  今回のレシピに使って頂いた「魚さし」と「揚げかまぼこ」は、通常かまぼこを製造する際につなぎとして使う「でんぷん」を一切使っていま せん。魚本来の味を引き出すために、このような製造方法を採っています。また「揚げかまぼこ」に関して言えば、揚げ油にも国内の最高級ブランドである「九 鬼 太白純正胡麻油」を使うなど、素材以外にも高品質のものを使うことで、素材の旨さを引き出しています。

    Q. どうやって食べるのがおススメですか?

    A.  「魚さし」は、「刺し身」の「さし」です。何もつけずにそのままか、わさび醤油などでシンプルに召し上がって頂くのがおすすめです。さっぱりとしたドレッシングなどを使ったカルパッチョなどにしても大変おいしく頂けます。
    「揚げかまぼこ」も同様で、そのまま食べるのがおすすめですが、実はチリソースなどとの相性もよく、自家製のソースにつけて召し上がるお客さまもたくさんいらっしゃいます。ほかにも、鍋物に入れたり、軽くあぶったりしても美味しいですよ。意外と自由度が高いんです。

  6. 貴千さんにとって、食とは、毎日のなかでどんな存在ですか?

    A. これは会社というより、広報の小松個人としての考えですが・・・。 食とは、生きるために必要なことであるだけでなく、日々の生活を豊かにしてくれるものだと思います。「おいしい」という満足感を得られるだけでなく、一緒 に食べる人とのコミュニケーションの場にもなり、生産者や販売者とのつながりを生む場でもあり、食材や食文化についての知識を得られる場でもあります。そ して何より、命のやりとり、土地との結びつきを感じる学びの場でもあります。
    人が生きるということはどういうことなのか。「食」からたくさんのことを学ぶことができます。そしてそこで学び得たことが、日々の暮らしを 豊かなものにしてくれると思います。以前はそのような考えはあまりありませんでしたが、やはり食の当事者としてかまぼこメーカーに勤務するようになってか ら、食について今までより深く考えるようになりました。

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  8. 「ふくしまの食」と聞いて、どんなことが頭に浮かびますか?

    A. 海の幸から山の幸まで本当にバリエーション豊かだ、という印象です。浜通り・中通り・会津とそれぞれに異なる食文化があり、その土地に根付いた豊かな食生活があります。生産者が近くにおりますので、皆さんの顔が浮かびますね。
    震災後のことで言えば、多くの生産者が大変な苦労をされて、今も悩みながら続けていらっしゃると思います。ただ、苦労した分だけ、誰もがとて も多くのことを学びましたし、地域に対する思いも強くなっているのではと思います。ですから福島のものが旨くて当然だし、安全で当然です。極めて質の高い 食が提供されていると思います。
    一方で、素材や質の良さを「伝える」のが不得意かもしれません。PRやプロモーション、パッケージデザインなど、まだまだ改善の余地がある と思います。パッケージデザインひとつとっても、他県の産品はデザイン関連本などに紹介されているのに、福島県は抜け落ちていたりします。本来持っている 質の良さを「どう伝えるのか」を私たちも考えていかなければならないと思います。「伝え方」に気を配りながら、地域一体となって、消費者に「直に」伝えて いく場を増やしていきたいと思っています。

  9. 「ふくごはん」プロジェクトは、震災と原発事故をきっかけに、改めて福島の食の魅力を多くの伝えたいと始まりました。貴千さんの毎日の生活や、特に営業等に関わることで、震災や原発事故の前後で、どんな変化がありましたか?

    A. 震災による風評被害などの影響で、売上げは一時期、3割程度落ち込んでしまいましたが、逆に震災があったからこそ、地元の食文化に目が いくようになり、それが新商品に結びつくなど、良い面も生まれています。 また、お客さまとの結びつきが震災前よりも強くなりました。物産展などで消費者に「直売」する機会が増え、その分、お客さまの声がダイレクトに届くように なりました。食べてくださる方たちの顔が見えることで、ものづくりにも、営業にも販売にも、好影響を与えていると思います。

  10. 最後に、かまぼこを食べてくれる人たち、このインタビューを読んで下さる皆さんへの一言をお願いします!

    A. かまぼこは、おいしくヘルシーで自由度の高い食品です。
    ぜひ自分なりの「おいしい食べ方」を見つけて頂き、出来れば、いわきのこの青い海と空を思い浮かべながら、是非おいしく召し上がって下さい。

 貴千さんの蒲鉾を購入できる場所

・貴千永崎工場直売所 いわき市永崎字川畑25
・貴千オンラインショップ  http://www.komatsuya3rd.com
・都内では、日本橋ふくしま館MIDETTE
上野駅「のもの」、秋葉原駅「のもの」
・コラッセふくしま内「福島県観光物産館」
スパリゾートハワイアンズ、いわきららミュウ
道の駅よつくら港など市内の観光拠点。
・常磐自動車道、東北自動車道、磐越自動車道のサービスエリアなど。