野菜農家「渡部農園」 園主・渡部定衛さん、三女・佳菜子さん(西会津町)

第27回〜食べることは、生きること。そこに、「面白さ」をプラスする 〜

野菜農家「渡部農園」
園主・渡部定衛さん、三女・佳菜子さん(西会津町)

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今月の野菜は、サヤエンドウの一種「スジナイン」です。「筋が無い」から「スジナイン」。そんなダジャレのような面白いネーミングの野菜に興味を 惹かれ、西会津町でスジナインの生産に力を入れている「渡部農園」の園主、渡部定衛(さだえ)さんと娘の佳菜子さんのお二人に、スジナインのこと、農業の こと、いろいろと伺ってきました。 2人ともNPO法人『食べてつながろう西会津の会』のキーパーソン。都市部との情報交換や農業体験の受け入れなど、さまざまな取り組みを通じて、地域や農 業の活性化に力を注いでいる “熱血親子”です(笑)

Q. 面白い品種名の『スジナイン』ですが、どうしてこれ

Q. 面白い品種名の『スジナイン』ですが、どうしてこれを栽培しようと思ったんですか?

A. 定衛さん)サヤエンドウはふつう、調理前の筋取りが欠かせないですよね。しかし『スジナイン』はその名の通り「筋がない」ことが特徴の新しい品種。 知った時にこれはおもしろい!と思ったのと、うちは直売やスーパーとの契約がメインで、何かこれといった特徴がないとダメだと思って栽培を始めたんです。

佳菜子さん)それに、下ごしらえが要らないということであれば、主婦の目線から見ても「これは助かる」と思ったんですよ。

Q. 『スジナイン』を作るにあたって大変な事はありますか?

A. 佳菜子さん)ふつうのサヤエンドウはもっと丈が伸びるんですが、『スジナイン』はそこまで丈が伸びないので常に中腰での収穫になるのがホントに大変です。 しかも、丈が伸びないから収穫量も上がらない。連作が出来ず、毎年畑を変えなければならないことも頭が痛いですね。でも、甘みがあって美味しいと、お客様 の評価は高いんです。

定衛さん)まだ作り始めて2年目だから、まだまだ工夫の余地がある。あとは単価をどこまで伸ばせるかっていうのがこれからの課題です。

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Q. スジナインの、おすすめの食べ方を教えてください。

A.  佳菜子さん)シンプルにおひたしです。甘みが引き立って、食材のうまみが一番よく分かるので是非おひたしで食べて欲しいと思います。

Q. 美味しい野菜をつくるための、お二人なりの“工夫”や“ひけつ”はありますか?

A.  佳菜子さん)当たり前ですが、やはり土作りにこだわることですね。土壌分析に従ってバランスを整えるのはもちろんのこと、ミネラル分の多い肥料や液肥を 使ったりしています。健康な土からは、やはり良い作物が収穫出来ます。人だけの力では、キュウリ一本作り出すことは出来ません。私たちが出来るのは、作物 が育ちやすいような環境を整えてあげることに尽きると思ってやっています。

Q. 野菜作りとは、毎日の中でどんな存在ですか?

A.  佳菜子さん)私にとっての野菜作りは、「生活のバロメーター」みたいなものですかね。芽が出れば喜び、せっかく栽培したものを動物に食べられ れば怒り、自然災害では悲しみ、良いものを収穫出来れば、楽しくなる。
天候や自然が相手ですから、思うようにいかないのが当たり前です。でも、まだまだ未熟な私は、いい意味で、そのことに一喜一憂しています。

Q. 渡部農園のポリシーってありますか?

A.  定衛さん)『スジナイン』の栽培を決めた理由の一つでもあるけど、お客様に選んでもらうために何をするのかってことです。人と同じことばかり やっていても、極端な話、趣味の延長線上で農業をやって、直売所に出してくる人と同じになってしまう。そうなると、単純な価格競争的なものに巻き込まれて しまいかねない。
自分たちは生活をかけて、プロ意識を持って農業をやっている。だから、素人でも作れるものばかり作っているようはダメで、レベルを上げて、そこに価値を見 出し、お客様に提供する。これが大事だと思っています。

さらに、そこに面白さがないと続かないから、毎年新しい品種や野菜を取り入れていますね。スジナインもその一つ。
そして、今年はカラーピーマンのプチピーという品 種の試験栽培をしているんです。新しい取り組みをする分、失敗も多い。それに同じ野菜を栽培しても、決して同じようには育ってはくれません。
でも、農業の 面白さって正解がないことなんじゃないかと思います。気候は毎年変わるし、栽培方法だって無限に存在しています。その中で自分たちにあったやり方を追求し ていく作業が面白い。「農業は面白くて、魅力あるものなんだ」ってことを若い人たちに伝えたいですね。

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Q. 今後、さらに力を入れていきたいと思っていることはありますか?

A. 定衛さん)もっと「人の交流」を活発にしていきたいと思っています。とにかくこの地域に足を運んでもらって、農業そのものや、私たちの作っている作 物なんかを直接目で見て、触れて、種撒きから収穫までの流れを体感して欲しい。

佳菜子さん)渡部農園では、地元の小中学校をはじめ、都会から人を誘致する「グリーンツーリズム」を積極的に行っています。去年はバスツアーを10回程度 行って、訪れた人に収穫体験をして貰いました。

定衛さん)出来れば収穫体験だけでなく、種から育つところを見て欲しいなと思うんだけど、それはこれからかな?
意外と地元の人たちも、外からの刺激が無いと農業への関心って湧かないもので、そういう意味でも、人の交流は重要だと思っています。地元の人も都会から来 た人も一緒になって、作物の花が咲くまでの苦労や、花が咲いた時の感動を知って欲しい。例えば芽が出る瞬間っていうのは、たとえ何度も経験しようとも、農 家にとって感動的なことなんです。子供たちにもそういった感動をどんどん与えるべきだと思うんですよ。

Q. 「ふくしまの食」と聞いて、どんなことが頭に浮かびますか?

A. 佳菜子さん)福島の食と聞いて頭に浮かぶのは、田舎料理ですかね。派手さは決してないけど、食べると温かい気持ちになる。そこが魅力だと思うんで す。私が好きなのは、キュウリやナスのお漬物や油味噌(人参、しそ、じゃこを油で炒めて、そこに味噌を混ぜ合わせたもの)ですね。ご飯何杯でもいけちゃい ます。
農産物に関しては、福島はいろんなものを栽培することが出来る分、あまり目立つことが出来ていない気がします。でも『南郷トマト』や『金山カボチャ』な ど、ブランド化に成功しているものも県内にはあるので、私たちも負けていられないと思っています。

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Q. 震災や原発事故のあと、毎日の生活や農業に関わることで、変化はありましたか?

A. 定衛さん)うちはもともとリオンドールやカワチ、生協など、地元での直売がメインだったので風評被害による苦労はほぼ無かったんです。ただ、県外相 手の商売の場合はそうはいきません。気にする人はどんな対策をしても気にするだろうし、気にする人に無理して買って貰ってもしょうがないと思っています。 同じ状況の中でも、自分のところの野菜がいいと言って買ってくれるお客さんがいる。ならば、そのお客さんを大事にしたいと思っています。

Q. 震災後、特に思い出深い出来事はありますか?

A. 佳菜子さん)実は私は、震災の2日前に就農したばかりだったんです。福島の農業が一番大変な時にスタートしたようなものでした。風評被害による価格 の極端な下落には、本当に困りました。それから、出荷した先々で行われる放射線の検査。安全を確認するためとはいえ、せっかく丹精込めて栽培した作物を検 査に使われてしまうことには、今でももどかしさがあります。
逆に感動したこともありました。直売所で買ってくださっているお客様から「渡部さんの野菜のファンなんです!!」って言って頂けたことがあって、本当に嬉 しかったです。毎日毎日、作業に追われて疲れきってしまいそうな時には、この時のことを思い出すようにしています。

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Q. 最後に、ふくごはんを見てくれた人たち、渡部農園さんのスジナインを食べてくれる人たちに一言をお願いします!

A. 定衛さん)一人でも多くの方に家の野菜を食べてもらえるよう、これからも頑張っていきたい。
佳菜子さん)農業者としても、人としても未熟な私ですが、これからも野菜たちと一緒に成長していきたいと思っています。応援よろしくお願いします。