第17回〜こだわり抜いた“旨さ”を、受け継いで〜 青木農園 青木秀之さん (昭和村)
食べた瞬間、口の中でじゅわっと広がる、あの旨み。冬の鍋料理や煮物には欠かせない“しいたけ”。父親の跡を継いで、幼い頃からの夢 だった農家となり、それから12年間、しいたけ一筋でやってきた青木さん。噛みしめた瞬間にうまみと香りがぐっと迫る、青木さんのしいたけ。豊かな自然に囲ま れて、ゆったりとした時間が流れる昭和村でこそ、育むことのできるこの味。その美味しさの秘密に迫ります。
Q. 農業を始めたのはいつですか?きっかけは何でしたか?
A. 父親がしいたけ栽培をしていて、休みなくきのこに接しているストイックな姿をかっこいいなーと感じたんです。その背中を見て、いつか は自分も「ああなりた い」と思いました。ゴールデンウィークなんて、世間は休みなのに、きのこが一番忙しい季節ですからね(笑)
小学校6年の卒業文集には、「しいたけ農家になる!」と書きましたし、高校の時には、中国産のしいたけが輸入されるニュースを聞いたときに、原木にこだわ りたいとも思い、父と話したこともありましたよ。
自分がしいたけ作りを始めたのは12年前くらい。小さい頃から夢は決まっていたので、農業の専門学校を卒業後 鳥取にある日本菌類専門学校を卒業したん です。
Q. 美味しいしいたけを作るための、青木さんなりの “工夫“や“ひけつ”は何かありますか ?
A. 自然の力をなるべく取り入れ、人間の力は最低限にとどめる事が大事だと思います。特に原木の「ちから」にこだわりたいと思っています。
原木は、しいたけに とって畑の土と同じですから、無農薬無肥料で栽培しています。
またうちでは、明るい場所で作る様にしているんです。しいたけはかびの仲間なので、暗い所を 好むし、温度をかけると早く育ちます。だけど、そうすると味が悪くなるし、軸も細長くなってしまう。なにより肉が薄くなってしまうんです。
明るい場所でしいたけを作るという栽培方法は、福島の気候じゃないと出来ないんです。それでも普通の栽培方法より大分日数がかかります。うちではだいたい 一年ですね。
冬はどうしても温度が低いので、しいたけを育てているハウスを暖めるために温水を使うんですが、そこには、しいたけを栽培して古くなった原木をリサイクル して、薪ストーブの燃料にしているんです。原木は2年使用したら廃棄してしまうので、サイクル型農業といえばかっこいいですかね(笑) 普通はわざわざ温度をかけませんし、ここよりもっと寒い北海道は重油を使用しているそうです。私の栽培方法は昭和村だからこそ出来るんですよ。
Q. 青木さんにとって、農業とは、毎日のなかでどんな存在だと思いますか?
A. 家族全員でしいたけ栽培をしているので、家庭生活に近いですね(笑)
Q. 「ふくしまの食」と聞いて、どんなことが頭に浮かびますか?
A. こだわりを持った農家さんが多いので、「本物」が多く、「偽物」が少ないイメージです。ただ最近では、安全性を確保するのに、これまでとは違う、多少の努 力が必要となってしまいましたが、それでも「本物」がたくさんある土地には変わりないと思っています。
Q. 「ふくごはん」プロジェクトは、震災と原発事故をきっかけに、改めて福島の食の魅力を伝えたいと始まりました。青木さんの毎日の生活や、特に農業に関わる ことで、震災や原発事故のあと、大きな変化はありましたか?
A. しいたけを栽培するのに、今までは地元である昭和村産のこならを使用していたんですが、西日本産に変えるしかなくなり、価格も上がり ました。あまり知られ てはいませんが、福島は原木の品質がダントツ一位の産地で、日本全体で使われている原木の60%のシェアを占めていたんです。それくらい質が良かったんで すよ。
原発事故のあとは、売り先と売り上げが低迷して、とにかく売れなくなりました。特にキノコ類はメディアなどの影響もあり、菌類が放射線物質を吸収さ れやすいというイメージが広まってしまい、取引先が福島県産を使用せずに、売り上げは7割も減ってしまいました。
もちろん人での繋がりがあるところは、 「青木さんだから大丈夫」といって使ってくださるところもありましたけれどね。
Q. 震災後、特に思い出深い出来事はありますか?
A. 以前と変わらずに食べてくれる「お客様」がとてもありがたいと思いました。長年付き合っているある八百屋さんは、一度、放射線に関す る診断書 を出して以来、安心して使用してくださっています。それでもやはり、売り先の「ジャンル」を変えなければならなくなってしまいました。
今までは有機農産品関係のスーパーがメインだったんですが、原発以降そういった店への出荷は少なくなってしまいました。そこで今は、地元や福島県内の給食 など、直接誰かに食べて貰えるところに、うちのしいたけを使って貰っています。 間接的な取引よりも、肌で感じる安心感が大事だと感じています。
去 年の夏にワークキャンプがあって、首都圏の子ども連れの家族が「しいたけ取り体験」に来てくれた時は、子供たちが「普通のと違う!」ととても喜んでいたの が印象に残っています。自信を持って、一度も県の検査では、放射線物質が検出されていないことなど、向こうからは聞きにくいだろうけどきっと気になってい る部分を自分から率先してしゃべったのが、安心感に繋がったんじゃないかと思います。
また、限界集落の仕組みを研究している、東京の大学生グループがしいたけを食べに来てくれたこともあって、そういう1つ1つの繋がりが、とても嬉しかった ですね。
Q. 最後に一言。
A. どうせ食べるなら、ぜひ「本物」を食べて下さい!]
<青木さんのシイタケを購入できる場所>
・ 福島県内なら、いちい・コープ会津・うすい百貨店
・ 県外なら「らでぃっしゅぼーや」など。