第16回 〜今のいわきの行政と、 生産者は一枚岩〜 横田竜一さん(愛知県みよし市出身)

2012年4月から2013年3月までの1年間の期間限定で、愛知県みよし市からいわき市農林水産部農政水産課に、復興応援職員とし て出向している、横田さん。今年10月、市役所内に新たに開設した、おそらく日本で始めての名称のプロジェクトチーム「見せます!いわき情報局 見せる課 (通称:「見せる課」)」職員を兼務しています。

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Q. 震災の時はどのような仕事をしていましたか。 どうしていわき市に出向されることになったんですか?
A. 震災のあった時はみよし市で会議をしていました。みよし市も揺れて、震度が2~3くらいでした。「おっ、TVつけなきゃ!」と思ってつけたら、沿岸部の街 が津波に飲み込まれている風景が流れていて、とても現実のことだとは感じることができず、映画にしか見えませんでした。温度もなく、冷たい映像だったこと を覚えています。
その後、みよし市が募集したボランティア団の一員として、宮城県を訪れたり、テレビなどを通して現地の情報に触れたりしているうちに、自分でも、もっとで きることがあるのではないか、と思うようになりました。そんな時、総務省を通じて全国の自治体に職員派遣の照会がありました。願ってもいないことだったの で、自分のできる業務、自分の能力が活かせる業務を考えて、いわき市への派遣に志願しました。

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Q. 現在の「見える課」ではどんなお仕事を担当されているんでしょうか?
A. いわき市「見せる課」はその名のとおり、いわきの農林水産業、観光業の風評被害の早期払拭に向けた関係者や市の取組みや、放射性物質検査の結果などを“見 せる”課です。このなかで僕自身は、「見せます!いわき情報局」というホームページの運営に携わっています。
このホームページは、いわきの現状を知ってもらうために立ち上げたもので、いわき市の取り組みや農産物の放射性物質検査の結果などの情報を発信していま す。また、より多くの人に関心を持ってもらいたいと、TVCMやレシピサイトと連動したり、facebookを活用した情報の発信にも力を入れています。
その他にも「見せる課」では、いわき市の魅力を身体で感じてもらうために、農家さんを巡るバスツアーや、実際にいわきのトマトを使ってチャレンジしてもら うアイデアレシピの募集なども行っているんですよ。

Q. 横田さんは仕事をされるなかで、いまの福島の農林水産物をめぐる状況についてどのように感じていますか?
A. まず、福島県産というだけで、消費者が敬遠されてしまうことがあります。このため、福島県産の農産物は、他県のものより価格が安くなってしまい、売上げも 落ちてしまうという声を、農家さんからお聞きしています。風評被害は目に見えないというけれど、私はこの農家の声が、風評被害の分かりやすい実態ではない かと思っています。
また、放射性物資検査の結果がなければ信頼されないため、事実上、検査が必須になっていて、時間的にも精神的にも、農家さんを始めとする関係者に、大変負 担がかかっている状況です。

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Q. 今回、「ふくごはん」のメンバーである料理家・本田よう一が、「見せます!いわき情報局」でレシピを提供させて頂きました。 キャンペーンの狙いや、皆さんがそこにかけている思いを教えて下さい。
A. まず何よりも、「見せます!いわき情報局」のホームページに掲載している情報を、多くの人に見ていただきたいと思っています。ホームページには、いま私た ちが知り得る限りの「ありのままの情報」を載せています。単にことばだけで、“安全・安心”などを訴えるのではなくて、いわきの農産物の現状や、それに対 するさまざまな取り組みを知ってもらった上で、消費者の方々に、安全・安心を判断していただきたいと思っているからです。
こうした情報を判断の際の目安にして頂いて、その上で、やっぱりせっかく選んでいただいた農産物や水産物は、よりおいしく、より味わって食べてもらいた い。だから今回、本田さんにいわきの特産品でレシピを考えていただいた、ということなんです。

Q. 今回のキャンペーンは、今後、どのように展開していくのでしょうか?
A. 何よりも、この取り組みを途中でやめないこと、続けることが大切だと思っています。誰にだって、“知らない”ことによって生まれる不安があると思うんで す。放射性物質の知識を、今まで殆どの方が持ち得なかったと思います。安全かどうか、わからないから福島県産は一切買わない、という考え方も出来るかもし れません。しかし、できればそうして欲しくありません。そのために、今、僕たちにできることは、知り得る「ありのままの情報」を、とにかく継続して発信 し、現場の状況をより多くの人に知っていただくことです。その結果、いわきの農林水産物が、より多くの方々に選んでもらえるようになれば、幸いです。

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Q. 仕事をしていくうえでの横田さんなりの「こだわり」はありますか?
A. まず、この仕事の“主役”はだれであるかを考えます。農家さんでもいいし、消費者の方々でもいい。その“主役”が何を望んでいるのか、僕が何をすればその 人たちの役に立つのかを考えながら行っています。
それと、人の話をしっかり聞くことです。小学生でも少し苦手な相手でも、話のなかから何かを得たり、自分の考えが間違っていたと気付いたりできるので、最 初にしっかり相手の言葉を聞くようにしています。仕事に拘らず私生活でも、このことを心掛けています。

Q.横田さんと農業のつながりは、仕事以外の場面でも何かありますか? ま た、横田さんにとって、農業とは、毎日のなかでどんな存在だと思いますか?
A. 僕の身近には、農家さんも畑もなくて、いままでそれほど接点がなかったんです。いわきに来て、農業関係の仕事に関わるようになって、休みの日に直売所に訪 れる機会が自然と増えました。そこで知り合いの農家さんの名前を見つけるとついつい、買ってしまう。食べると農家さんの笑顔が浮かんできて、いつも以上に おいしく感じます。また、野菜が収穫できるまでの苦労を知ることができたので、今まで以上に感謝して頂くようになりました。

Q. 「ふくしまの食」と聞いて、どんなことが頭に浮かびますか?
A. 愛知にいた頃は、漠然とお米がたくさんあって、おいしい日本酒があるくらいでした。それは僕がお酒好きだからなんですけど(笑) でもいわきに来て、本当 においしい生のかつおを食べたり、仕事を通じて、トマト、ねぎ、いちご、米、梨といった特産品に出会ったりと、いわきには沢山の特産品があることを知るこ とができました。

Q. 震災の後で、何か農業に関わることで、思い出深い出来事はありましたか?
A. 農家の方から、「これまで行政には距離を感じていたが、震災をきっかけにすごく身近に感じれるようになった」とおっしゃって頂いき、嬉しく思いまし た。今、いわきの行政と農家さんは同じ方向を見て、進んでいっていると思います。昨年、いわきの現状を伝えるためにTVCMを作成した際も、お声掛けする とすぐに1000人の方々に集まっていただいたと、お話を聞いたときは、正直、驚きました。

Q. 最後に、このコラムを読んでくださる、県内外の人たちへの、一言をお願い致します!
A. ぜひ一度、「見せます!いわき情報局」のホームページをご覧になってください。そして、ホームページから、いわき市やいわき市の農家のみなさんの取 り組みを知ってください。これからも、どんどん情報を更新したり、増やしたりしていきます。その情報を材料に、いわき市の農林水産物、観光を皆さんの目で 判断してください。

 

 

見せます!い わき情報局

http://misemasu-iwaki.jp/index.html