「寒干し大根」「打ち豆」栽培 室井和之さん、裕子さん(南会津町)
第33回〜冬の寒さと、あふれるアイデアが、美味しさの秘訣 〜
「寒干し大根」「打ち豆」栽培 室井和之さん、裕子さん(南会津町)
真冬の積雪が2メートル近い南会津町で、大豆や青豆などの生産、それに冬場は寒干し大根を生産している室井さん夫婦。室井さん夫婦のもとを訪れて 驚いたのは、その手作りのアイデアの数々! 大量の大根の皮をどうやったら簡単に剝けるのか? 大根を干す時、どうやったらバランス良く、美味しく干せる のか?
農業のおもしろさや奥深さ、広がる可能性・・・。
いろんなことを感じさせてくれる魅力あふれるご夫婦です!
Q. 「青豆」、そして「打ち豆」を作り始めたきっかけは何でしたか?
A. いまから10年ほど前のことです。大豆の生産を始めてから数年が経ち、普通の大豆だけではなくて他にも、と思って始めました。最初は特性が分からなくて失 敗もしましたが、何年か経ち、この土地にあった豆が育ってきたように思います。
打ち豆は、青豆の生産がある程度軌道に乗ってきたところで、今度はどうやって売ろうかと考えた末に始めました。まずは豆のまま、そしてお豆腐にしようと思 い立ってお豆腐を、その次に打ち豆を作り始めたんです。
Q. 美味しい青豆を作る、室井さんならではの秘訣はありますか?
A. この地域は寒暖の差が大きいおかげで、甘みのある豆が育ってくれます。それから青豆は、やっぱり青みが肝心。種は毎年自分の手で在来種を取っているんです が、いい豆が育つよう、種の選別は丁寧に行うことにしています。
Q. もう1つの食材は「寒干し大根」。こちらを作り始めたきっかけは何でしたか?
A. うろ覚えですけれど確か10年くらい前です。農閑期で、真冬日の続く本当に寒い冬。その時期に何か出来るものはないだろうかと、町の農家が何件か集まって 考えたんです。その時いろんなご縁があって、飯舘村の人から「寒干し大根」を教えて貰いました。これはいいと思って作り始めてみたら、昔はこの地域でも良 く作られていたそうで、近所のお婆ちゃんが「懐かしい」と言ってくれたのを覚えています。
Q. 美味しい「寒干し大根」が出来る秘密はなんでしょう?
A. 家族のチカラ?ですかね。だいたい1年で1200本くらいの大根を干します。大量の大根を収穫する時、皮を剥いたり茹でたりと、我が家では昔から子どもた ちが休みの日を使って寒干し大根作りを手伝ってくれているんです。小学生のころからやっているので手慣れたもの。心強いです。作業をするのは大寒の前後。 やっぱり一番寒い頃が丁度いいんですね。
それから、寒干し大根造りに必要な道具は、ほとんどが夫(和之さん)が手作りしてくれます。使いやすいようにと、その場ですぐ直してくれる んです。例えば皮をピーラーで向くときの作業台。ローラーが付いていて、力を掛けずに大根を回しながらスッスッと皮が剝けるんです。昔は片手でピーラーを 持ち、もう1本の手で大根を持ってやっていたけど、結構重いから手が痛くなるんですよ。これで一気に楽になりました。作り始めたころに比べると、その疲れ 具合は半減! 農業は何事も、ちょっとした工夫の積み重ねが大きな鍵を握っているかもしれません。
大根を干す干し場は、花卉の育苗ハウスに屋根だけビニールをかけたもの。雪がたくさん降るんですが、干した大根に冷たい風が良く当たるよう にするため、ハウスのまわりの除雪は欠かせません。除雪を充分やれなかった年なんて、大根に赤いカビのようなものが出たり、乾いてもひしゃげてしまうこと があったりしたんですよ。七ヶ岳から吹きおろす寒風が、良い塩梅に大根を干してくれるんです。
Q. うちのは「他とはココが違う!」というポイントを是非教えて下さい。
A. 「寒干し大根」について言えば、丸々1本そのまま干しているところですかね。
このあたりではもともと、寒干し大根は半分に切ったり長さを揃えたりするのが主流のようです。でも我が家では敢えて、1本の大根の姿のまま、 まるまる干しています。そうした方が凍み具合もちょうど良くなるし、切っちゃうと、乾いた時にさらに小さくなっちゃうから見栄えも良くない。丸々1本の方 が楽しい!し、売っている時のインパクトがあるでしょ?(笑)
Q. オススメの食べ方やレシピを教えて下さい。
A.
(青豆、打ち豆)
我が家では、青豆はほとんど毎日食べています。朝ご飯のために前の夜に準備するお釜に何粒か入れたり、煮物やサラダにも良く合います。カレーやシチューに 入れると、緑色がいいアクセントになるのでおススメです。
それから豆乳。豆から自分で作る作りたてはとっても美味しいですよ。家庭用の豆腐も、自分で作ります。おからのサラダも、一押し。 お豆は、何に入れても 邪魔をしないで彩りを添え、引き立ててくれる。万能ですね。
(寒干し大根)
食べ方はシンプルに。戻し汁も一緒にだし汁に加えて煮物にしたり、おでんに入れてみたり。味が良くしみて美味しいですよ。我が家の食べ方を紹介したいと 思って、寒干し大根を売る時には必ずレシピも一緒に付けるようにしているんです。遠くから観光に来た人なんかは、道の駅で売られていても、そのままだと食 べ方分からないですもんね(笑)。
Q. 室井さんにとって、農業とは、毎日のなかでどんな存在ですか?
A. 生活の基盤でしょうか。作物を育てて、売って、お金に換えて、生きていく。成功することもあるけれど、失敗することの方が多いかもしれませ ん。一年に一回だけしか出来ない作物に一喜一憂しながら、それでも「今度こそうまくやろう」と試行錯誤を繰り返してきました。経験が糧となって今を支えて くれるんです。同じような失敗をしてしまうこともありますけどね(笑)
Q. 「ふくしまの食」と聞いて、どんなことが頭に浮かびますか?
A. 伝統食が各地にあって、それぞれに名物が多いなあと感じます。でもみんなで同じようなものを作ってしまうからでしょうか。地方の特色が半減しちゃう気もしますね。
Q. 「ふくごはん」プロジェクトは、震災と原発事故をきっかけに、改めて福島の食の魅力を多くの伝えたいと始まりました。室井さんの毎日の生活や、特に農業に 関わることで、震災や原発事故の前後で、どんな変化がありましたか?
A. 特に豆腐なんかは、お客様から「もう無いの?」っていう嬉しい声を頂く機会が増えてきて、本当は震災の年から、出荷量を増やす予定でい たんです。けれどこの年の春は、今までの半分も売れませんでした。直売所に顔を出して聞いたら「お客さんが少ない」って言っていました。ここで買わなくて も、他の地域でも、豆や大根は売っているからね。消費期限の短い青豆豆腐なんかは、定価400円だったものを100円に下げて販売しても売れ残ってしまう くらいでした。原価割れしてしまうので何とも辛い時期でした。今では少しずつ戻ってきていますけれども、大変な時期でした。
Q. 最後に、農作物を食べて下さる人たち、このインタビューを読んで下さる皆さんへの一言をお願いします!
A. 嬉しい時、楽しい時、怒っている時、悲しい時だってお腹は空く。
食べることは生きることだなぁと、つくづく思います。食べたもので身体は作られます。だから毎日の食事には、心身を元気にしてくれるものを食べて欲しいな と思います。
これから先、寒干し大根や打ち豆、豆腐のほかにも、いろいろなものを加工して販売していきたいと思っています。たくさんの人に手に取って貰えるように、品 も質も見た目も大切にしながら開発をしていきたいと思いますので、期待して待っていてくださいね。
< 室井 さんの寒干し大根、打ち豆を購入できる場所 >
- 南会津ふるさと物産館
- 町の駅 道の駅 たじま